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実店舗から通販専門店へ。カレー店「HARE GINZA」がコロナ禍でも愛され続ける理由

HARE GINZA

2022.09.26

※当事例は、webメディア「おなじみ」に掲載された記事を一部加工した上での転載となります。

カレー店「HARE GINZA」店主の橋本徹さんは、顧客との密なコミュニケーションのためにLINE公式アカウントを活用しています。通販専門店へと業態を変えてもなお、ファンに愛され続ける秘訣(ひけつ)について話を聞きました。

銀座のスナックを間借りしてカレー店をスタート

――「HARE GINZA」は最初、銀座の数寄屋通りに、スナックの空き時間を借りて開業されたんですよね。橋本さんはそれまで、さまざまな飲食店で勤務のご経験があると伺いました。

 

橋本徹さん(以下、橋本さん):もともと歌手として音楽活動をしていたので、料理人になりたかったわけではないんです。飲食店でアルバイトするとまかないが食べられるので、生活のためにジャンルを問わずいろいろなお店で働いていました。洋食店、イタリアン、中華などの後、最後に勤めたのがタイ料理店でした。

 

今でこそエスニック料理を出すお店はたくさんありますが、35年ほど前は少なかったんですよね。そのお店には初めて見るような食材や調味料がたくさんありました。働くうちに「こうしたらもっとおいしくなるんじゃないか」と自分で具体的に試してみたいと思うことが増えてきたんです。

 

ちょうどその頃、母が銀座でスナックを開くことになり、僕も手伝うことになりました。そこで、今でいう“間借り営業”として昼時間帯にお店を使わせてもらうことにしたんです。最低限食べていければいいなと、1日15食限定のカレー店『晴(はれ)』としてスタートしました。

 

――そのカレーも、日本人にとっての「お味噌汁」のように食べ飽きない存在に、という観点から開発されたんですよね。私も先日お取り寄せしましたが、辛味が効いたタイカレーの特徴がありつつ、欧風カレーのようなまろやかさもあり、いくらでも食べられそうな印象を持ちました。

 

橋本さん:おっしゃるとおり、コンセプトは「毎日でも飽きずに食べられるカレー」です。何十種類のスパイスを使うのではなく、シンプルな構成なのに、また食べたくなるような味わいを目指しました。意外な組み合わせの食材を使うことも多いですが、これは幅広いジャンルの料理店でアルバイトさせてもらった経験の賜物だと思っています。

 

――開業してみて、お客さんの反応はいかがでしたか?

 

橋本さん:営業していたスナックは路地のビル3階だったので、一見さんが入りにくい隠れ家的な立地でした。なので、来てくださる方はリピーターさんがほとんどでしたね。「ちょっと変わったカレーが食べられるよ」「面白いお店だよ」と少しずつ口コミで広まり、メディアで取り上げられるようになると新規の方も多く来てくださるようになりました。

 

最初は明確なビジョンを持たず「1日15食売れればいい」と始めたお店でしたが、3年間の営業で常連さんが増えてくるにつれ「今後お店はどういう形になっていくのかな、自分はどうしたいのかな」と、心の変化を楽しむような時期に変わっていきました。

まかない料理や試作メニューでお客さんとのコミュニケーションを深める

――その後、1994年にすずらん通りに「HARE GINZA」として独立店舗を構え、さらにソニー通りに移転します。間借り時代に比べるとスケールアップしましたよね。

 

橋本さん:規模が拡大し、キッチン設備も充実したので、昼はカレー専門店、夜はお酒とおつまみを楽しんだ後、シメにカレーを出す形にしました。

 

お客さんは間借り時代と変わらず、銀座近隣にお勤めの20代~60代のビジネスマンが多くて男性6:女性4くらいの割合。常連さんはもちろん、幅広い方に気軽に来ていただけるようランチ時は「誰でも利用できる社員食堂」という位置づけにし、夜はジャンルをカテゴリー分けしない「まかない料理」をおつまみとして楽しんでいただくようにしました。

カレー以外にも20種類ほど出していたんですが、材料があればお客さんからのリクエストに応じて一品作ったり、試験的に作ったメニューをお出しして感想をもらったり。お客さんにはそういったやりとりも含めて楽しんでもらいたいなと思っていましたね。その方が私たちスタッフも楽しいじゃないですか。

 

――確かに「試作メニュー食べてみてくれない?」とスタッフさんからお願いされたら、客側としても心理的な距離感がグッと縮まる気がします。

 

橋本さん:お客さんには感謝しつつも、必要以上にかしこまることなく、フラットに迎え入れたいと考えていました。初めて来てくれたお客さんとは積極的にお話しして、次に来たときには名前で呼んだり、以前の会話の内容を覚えておいて「どうでしたか?」と聞いてみたり。そうすると親近感を持ってくれるので、また来ようと思ってもらえるんです。

「LINE公式アカウント」を活用し、チャットでお客さんとやりとり

――この頃から、LINE公式アカウント(旧:LINE@)を活用されていましたよね。スタンプカードやクーポンなどを配信されていたとお聞きしましたが、導入するきっかけは?

 

橋本さん:プライベートでLINEを使うようになって、他に何ができるのかと調べてみたのがきっかけです。もともとは紙でスタンプカードを作って、トッピングのサービス券を配っていました。それが、LINE公式アカウントでもスタンプカードのような機能(ショップカード)があるのを知って、手軽だし紙の削減になるし面白いかなと。それまでは販促に経費をかけていませんでしたし、月5,000円程度なら無理なく始められるなと考えて開設しました。

 

――導入して、お客さんの反応はいかがでしたか?

 

橋本さん:ポピュラーな連絡ツールとしてLINEを使う人が増えてきたこともあり、普及は比較的楽でしたね。ただ、意識したのは「お客さんにとって本当に有益なメッセージしか発信しない」こと。月2~3回のみの発信で割引や無料情報などに絞ると、興味を持って毎回開いてもらえるようになりました。

 

――現在はどのくらいの登録者がいるんでしょうか。

 

橋本さん:今、友だち追加してくださっているユーザーは2,000人程度で、開封してくれるアクティブユーザーは1,700人前後。TwitterやInstagramはスタッフに運用を任せていますが、LINE公式アカウントは僕が管理していて、お客さんとのチャットは全て自分で返信していますよ。

 

――えっ、ご自身が一人一人とやりとりされるんですか?

 

橋本さん:はい。LINE公式アカウントには自動返信機能もありますが、お客さんからの質問はもちろん、スタンプだけのものにもスタンプで返しています。このようなリアクションは、メッセージを配信すると10件ほど来ます。スキマ時間にできますし、僕がお客さんだったら、お店から返信が来たらうれしいと思うので続けています。

 

たまに、試しに「あ」とだけチャットで連絡をくれるお客さんがいて、その場合でも「メッセージありがとうございます」「ご質問があればいつでもどうぞ!」と返すと、あちらもびっくりしますね(笑)。でも、スマホの画面越しにお店とちゃんとつながっていることが分かるので距離がグッと縮まって、新たなコミュニケーションが生まれます。

 

お客さんにとっては、直接お店に電話やメールをするのはハードルが高くてもLINEのチャットなら気軽にできますよね。お店側としてもフォローやケアがレスポンスよくできるのは魅力的です。多くのお店のLINE公式アカウントはメッセージ配信のみだと思いますが、本当にお客さんに伝わっているのかな、もったいないなと思いますね。

現在のLINE公式アカウント。限定商品などのお得な情報のみを発信中

――2021年3月には30年続けてきた銀座の実店舗を閉店し、冷凍カレーの通販専門店へと営業スタイルを変えられましたが、どのような経緯があったのでしょうか?

 

橋本さん:家賃や人材確保の負担が重くなってきたことに加え、材料費も高騰し続け、以前より外食機会が減り、お客さんたちの飲食店への興味も落ち着いてきています。「HARE GINZA」を開業した頃と今とでは飲食店のあり方が変わり、「お店としての賞味期限が切れかかっている感覚」を覚えていたところでした。

 

コロナ禍をきっかけに完全廃業することも考えましたが、実店舗で希望者向けに販売していた手作りの冷凍カレーを、今度は通販専門の業態にしようと決めました。

来店客専用のLINE公式アカウントを開設し、コアファンとの関係を持続

――銀座から葛西(東京都江戸川区)に移転し、冷凍カレー通販専門店に業態転換をされてから1年ほど経ちますが、状況はいかがですか?

 

橋本さん:順調だと思います。現在はネット通販での販売に加え、出店のオファーや「『HARE GINZA』のカレーでお店を出したい」と言ってくださる方も多く、セントラルキッチンとしての働きもあります。実際、新木場(東京都江東区)のカフェ「soko station 146」で提供していただいています。

 

今後、僕自身で実店舗を運営することはないと思いますが、何らかの形で「HARE GINZA」を広めていければいいなと思っています。

 

――現在も引き続きLINE公式アカウントを使われていますが、実店舗時代と現在とで変わった点などはありますか?

 

橋本さん:通販専門店になってからは、送料無料や割引キャンペーン、普段出していない限定メニューのお知らせをしています。限定メニューは発売当初は様子見も兼ね、あえて仕込み量を絞っていますが、反応が早くて数秒で売り切れてしまいます。「買いそびれました!」「悔しい」というようなリアクションもいただきますよ。そこで「また頑張って仕込みます!」「待っててくださいね」と返信するとお客さんの印象に残るので、次は逃さず買ってもらえることも多いですね。

 

とはいえ、全てをLINEで情報発信しているわけではありません。公式サイトや他のSNSにしか載せていないお得情報もあり、いろいろな導線をつくっておくことで、お客さんが定期的にチェックしてくれるのではと考えています。

 

――なるほど、あえてそうした演出もしているんですね。ちなみに、実店舗で夜に出されていたまかない料理は今後提供しないんですか? SNSで「もう食べられない」と残念がる声を見つけたのですが。

 

橋本さん:葛西キッチンではカレーのほかに時々、一品料理やお店オリジナルの調味料を限定10食などで販売しているので、そこで味わってもらえます。これは不定期ですし、来店しないと購入できません。そういった情報をお届けするために、来店したお客さんにしかお伝えしていない葛西キッチン専用のLINE公式アカウントも開設したんです。

 

――そうなんですね! 熱心なお客さんにとっては特別感がありうれしいですね。

 

橋本さん:閉店を決めてからも続けてこられたのは、LINEでお客さんと変わらずつながれていたことが大きいですね。

 

実店舗があった頃はお客さんと顔を合わせてお話ができたけれど、営業スタイルを変えたことでその機会が減ってしまいました。だからこそ、LINEを通じてお客さんと積極的にコミュニケーションを取っていきたい。今後もその関係性を大事にしたいと思っています。

 

(公開:2022年9月)

 

※本記事内の数値や画像、役職などの情報はすべて取材時点のものです
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