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棚前で思い出されるブランドへ LINEミニアプリ起点の「ゆるやかなCRM」設計

ハウス食品グループ本社株式会社

2026.02.24

ハウス食品グループ本社株式会社 清土 健太郎氏

※当事例は、日経ビジネス電子版に掲載された記事の転載です。

調味料や食品の購買は、その多くが購入店舗の棚前における瞬間的な判断に左右される。ハウス食品グループ本社(以下、ハウス食品グループ)では、LINEミニアプリを活用した施策「HOUSE QUEST WORLD(ハウスクエストワールド)」を通じて「棚前でブランドを想起してもらう」ための取り組みを展開し、想定以上の成果を上げた。その戦略と設計について、仕掛け人の清土健太郎氏に話を聞いた。

ハウス食品を筆頭に、ハウスウェルネスフーズ、マロニー、大手カレーチェーンの壱番屋などを横断的につなぐハウス食品グループ。カレーやスパイスに限らず、原材料調達、研究開発、生産、品質保証、商品開発まで広く深いバリューチェーンを担っている。

 

しかし、こうした事業構造が生活者に強く意識される必要は必ずしもない。食品は低関与カテゴリーであり、購買の多くは棚前での瞬間的な判断に委ねられているからだ。重要なのは、複雑なバリューチェーンを理解してもらうことではなく、選択の場面で思い出してもらえるかどうかにある。一方で、購買に関するデータの多くは流通プロセスの中で蓄積されるため、メーカーが生活者の行動を直接把握できる情報は限られている。そのため、食品メーカーは、生活者の行動や意識を捉えにくい“見えない生活者”との関係構築が難しいという構造的課題を抱えている。

 

このギャップを埋めるべく、ハウス食品グループでは生活者との接点設計を見直す取り組みをスタートさせた。それが、LINEミニアプリ上で展開する施策「HOUSE QUEST WORLD」だ。取り組みの背景について、コーポレートコミュニケーション本部 広告統括部 デジタルクリエーティブ課 チームマネージャー 清土健太郎氏は次のように語る。

ハウス食品グループ本社株式会社 コーポレートコミュニケーション本部 広告統括部 デジタルクリエーティブ課 チームマネージャー 清土 健太郎 氏

「当社の分析では、食品カテゴリにおいて、購買直前に最も強く影響を与える要因が“想起”であると確認できています。思い出してもらう瞬間を意図的につくることこそが最大の価値だと捉え、購買データ起点ではなく、接触データ起点のCX(顧客体験)モデルを再定義しました。日常の中でブランドに触れたときに、『あれも、これも、ハウスだったんだ!』と思い出していただくことが、選択の理由につながると考えています。その実現に向けて企画したのがHOUSE QUEST WORLDです」

 

ハウス食品グループが目指したのは、無理にファン化を促すのではなく、接触体験を積み重ねることで関係性を自然に深めていく「ゆるやかなCRM(顧客関係管理)」だ。

 

一方で、ハウス食品グループには、すでに深い関係を築いているロイヤル層も存在する。会員サイトやファンコミュニティでは、購買データやアンケートを通じて属性を把握でき、継続的な接触による関係深化と定着を実現している。

 

清土氏によれば、こうした会員組織として把握できている“見える領域”のロイヤル層以上に、分母ポテンシャルが大きいのが、購買や属性を直接捉えきれない“見えない生活者”だという。この広義の見えない領域といかに日常的な接点をつくるかが、今回の施策設計における出発点だった。その答えとしてたどり着いたのが、LINEミニアプリという選択だった。

 

「生活動線の中で自然な接点が生まれる状態をつくるにはどうするかを検討した結果、プッシュ型で情報を届けるのではなく、生活者が自ら触れたくなるプル型の体験を実現できる点が、LINEミニアプリを選定した大きな理由でした。アプリダウンロードが不要で企業側の説明コストが低いこと、リーチボリュームのあるLINE上で世界観の表現から回遊動線まで完結できること。さらに、LINE公式アカウントとシームレスに連携できること、Webよりも回遊性が高く、ネイティブアプリよりも動作が軽快であること――こうした理由から、今回の施策に最適なプラットフォームだと判断したのです」(清土氏)

わずか4カ月で登録目標数を達成 継続的な再訪を生む設計

HOUSE QUEST WORLDは、ハウス食品グループのバリューチェーンについて、アプリでの体験を通して理解してもらう取り組みだ。アプリは双方向型ゲームの形式を採用し、クイズなどの「ミッション」、ミッション後に回せる「クエストガチャ」、クエストガチャで獲得した商品画像を蓄積できる「コレクション」で構成。“ハウス食品グループとはどんな会社なのか”を、自然に知ってもらう設計としている。

複雑なバリューチェーンの価値をミッションやクエストガチャ・コレクションと体験化

ミッションをクリアするごとに「QUEST POINT」が付与されるが、これはユーザーを強く呼び寄せるためのインセンティブを主眼とした設計ではない。各種汎用ポイント(PayPayなど)が当たるキャンペーンにエントリーできる仕組みは用意しているものの、当選ボリュームはあくまで限定的だ。清土氏は「体験の中で気づきや楽しさが生まれ、ポイントを付与して終わりの関係にしない思想を丁寧に共有して合意形成を進めました」と振り返る。

 

そのうえで、HOUSE QUEST WORLDの構造をできるだけ簡便にすることを強く意識した。「1日1回、しかも短時間触ってもらえれば十分だと考えていました」と清土氏は語る。こだわったのは、独自の世界観とミッション設計によって誰もが手軽に触れられる体験を用意したこと、ミッションやクエストガチャを通じて「あれも、これも、ハウスだったんだ!」と思い出してもらえる仕掛けを組み込んだこと、そして直感的なUXによって初見でもすぐに理解できる構成とした点だ。

 

その成果は想定以上のものとなって現れた。HOUSE QUEST WORLD は2025年6月30日から2026年3月31日の9カ月にわたる施策だが、開始からわずか4カ月の10月には、目標数であるLINEミニアプリ登録目標数を達成した。

また、利用頻度の高いヘビーユーザーは、滞在時間が従来キャンペーン比2.6倍を記録。再訪率も目標比1.3倍に達した。

 

清土氏は「今回の取り組みでは、広告の量によって成果を左右する設計にはしていません。あくまで日常の中で自然に触れられる体験設計を重視しました。その結果、特定の獲得施策に依存しない形で利用が広がり、行動面でも想定していた手応えが得られています」と語り、こう続ける。

購買データ・高インセンティブを用いずに
関係の質をここまで定量化・改善できた事例はグループ内に前例がない
  • 集計期間|2025年6月〜10月(GA4およびミニアプリDBより抽出)

  • ヘビーユーザー定義|上記集計期間内に配信された全ミッションに参加したユーザー

想起につながる生活内での接触行動が想定以上に活性化。滞在と再訪が継続的に生まれ、生活者との関係の深まりを定量的に証明した

「軽い接触の積み上げによって行動データが大きく伸び、ブランド理解が浸透しただけでなく、生活者との関係性が確かに深まり始めている兆候が確認できました。世界観の設計と相性が良く、回遊構造をつくりやすいLINEミニアプリ活用ならではの特徴が、プラスに作用したと感じています」(清土氏)

 

本取り組みは、LINE公式アカウント全体の行動指標にも波及した。HOUSE QUEST WORLDの施策前と比較して、メッセージ配信の開封率が大幅に向上し、クリック率も大きく向上している。こうした結果から、関係性の構築を起点としたゆるやかなCRM的アプローチが、ユーザーの行動変化につながったことが示されたと話す。

 

「LINEミニアプリで利用頻度が高くなったユーザーは、ロイヤル層ではなく“見えない生活者”の中にいたライト層でした。この層の行動変化が、結果としてLINE全体の指標改善につながっています」(清土氏)

JANコード連携の新機能も開始
LINEミニアプリが広げる“思い出される関係”の可能性

2026年1月からはクエストガチャの対象数をグループ企業に広げ、従来のアイテム200点から702点まで拡張。さらにスマホのカメラでJANコードを読み取ってコレクションできる機能を実装し、購買前から購買後までの行動ログを連続的に把握できるようにした。

 

「これにより、例えばテレビCMの効果をメーカー側で直接捉えられるようになります。CM放映後1〜2週間でJANコードの読み取りがどれだけ動いたかを分析すれば、“この露出でこれだけ反応があった”というエビデンスを示すことができ、営業商談でも説得力が高まります。この仕組みはテレビCMだけでなく、PRやイベントなど幅広い施策にもつながっていくはずです」(清土氏)

JANコード連携により、購買前から購買後までの行動を一気通貫で捉える構想。LINEミニアプリを起点に、接触データ活用の可能性をさらに広げていく

先に挙げたようにハウス食品グループには会員サイトやファンコミュニティがある。LINEミニアプリのメインターゲットはその下に位置し、日常の中で触れられる接点をつくり、まずは無理のない関係を築くことが主眼だ。そして関係性が深まったユーザーが自然な流れで会員サイトやファンコミュニティへ遷移していくことを狙いとしている。今回の取り組みがもたらした果実について、改めて清土氏はこのように語った。

 

「LINE公式アカウントを『気づきを生む入口』、LINEミニアプリを『日常的な接触を担う体験ハブ』、会員サイトやファンコミュニティを『関係を育てていく場』と位置付けた。これら三層の役割を明確化したことで、従来は困難だった三層連動のCX設計が可能になりつつあります。LINEミニアプリには日常接触のハブとして期待しています」(清土氏)

 

これまでのマーケティングは、「データ量×広告量」が成果を左右する一因になっている。しかしここで紹介した事例は「関係設計×接触データ」にフォーカスすることで想定以上の成果をあげた貴重なベストプラクティスである。見えない層の可視化に悩む食品マーケティングを“生活者との関係中心”に転換するモデルケースとしても優れている。

 

多くの生活者のスマホには高確率でLINEがインストールされている今、LINEミニアプリは“気づきを与える関係設計”に極めて相性の良いツールと言える。本事例は、生活者を無理にファン化するのではなく、日常の中で思い出される関係をどう設計するかが、結果として成果につながることを示した好例と言える。

  • 本記事内の数値や画像、役職などの情報はすべて取材時点のものです

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