山口県農業協同組合(以下、JA山口県)は農産物直売所のDX(デジタル技術による変革)と、総合ポイントサービスを軸とした会員基盤づくりを進めてきました。その中で課題となっていたのが、紙の申込書や現物カードの発行・管理といった旧来型の運用です。こうした課題を解決したのが、2025年2月に導入したLINEミニアプリ「JA山口県総合ポイントアプリ」とLINE公式アカウントの活用です。LINE上で会員登録やポイント確認ができるようになったことで、登録手続きは格段にスムーズになり、新規会員の増加や直売所の売上向上、事務負担の軽減へとつながっています。本施策を推進してきた本村智美氏(以下、本村氏)、松田志穂氏(以下、松田氏)、村永純氏(以下、村永氏)に話を伺いました。
- 紙の申し込み・現物カード中心の運用から脱却し、会員登録の利便性を高めたい
- ユーザー基盤を拡大し、直売所の利用促進と正組合員の所得向上につなげたい
- ユーザーデータを活用し、組合員加入や各事業の利用促進につなげたい
- DMや紙業務に依存した運用を見直し、事務負担とコストを削減したい
- LINEを起点に若年層を含む幅広い世代との接点を強化したい
- 「JA山口県総合ポイントアプリ」のLINEミニアプリを導入し、登録から会員証提示までをデジタル化
- 入力項目の最小化・入力支援機能の実装により、登録の簡便化と記入不備の解消を実現
- 既存ポイントシステムやPOSレジと連携し、現物カードとの併用も可能なスムーズな移行設計を構築
- 会員種別が一目で分かる色分け画面を採用し、接客時の案内効率を向上
- 米の年間予約サービス「おこめんばー’S Club」をLINEミニアプリに組み込み、申し込みから受取管理をデジタル化
- 新規会員申込が 月800名から月1,000名前後に増加、導入月は 3,782名
- 店舗端末(KIOSK端末)の廃止予定により、20店舗分の保守費用を削減
- デジタル化で、発行業務担当者は5名から1.5名へ効率化
- 来店イベントで 売上・来店数が前年比120〜130%に
- メッセージ開封率は 全配信で70%、配信対象を絞った場合は90%超となり、情報発信の効果が飛躍的に改善
紙と現物カードのポイント運用が会員拡大のボトルネックに
JA山口県は2019年4月、県内12のJAが合併して誕生しました。2025年3月末時点の総組合員数は208,044名、うち正組合員数(農業者)は63,845名、正職員数は2,158名です。
「わたしたちは、親しみと信頼で人と人をつなぎ、次代にわたり、ふるさとの農業とくらしを支え続けます」という経営理念のもと、貯金・貸付・共済・購買・販売・営農指導など総合的な事業で地域の農業と暮らしを支えています。なかでもJA農産物直売所(20店舗)は、地域農業にとって重要な基盤です。少量から出荷できる仕組みにより、新規就農者や小規模農家でも参加しやすく、地域農業の裾野を広げています。
「地域農業の裾野を広げ、消費者との接点を強化するうえでも、直売所事業は非常に重要です。JAファンづくりの拠点としても大きな役割を担っています」(本村氏)
こうした取り組みの延長として、直売所などで利用できる「JA総合ポイントサービス」が立ち上げられました。買い物だけでなく、貯金や共済などJAのさまざまな取引でもポイントが貯まる総合ポイントとして設計され、会員基盤とデータ活用の土台となることが期待されています。
しかし実際の運用は、紙の申込書と現物カードに大きく依存していました。
「会員は申込書を記入した後、カードが郵送で届くのを待つ必要があり、ポイントカードを利用できるまでには約1週間を要していました。磁気不良や紛失に伴う再発行も少なくなく、そのたびに同様の手続きとコストが発生していました」(松田氏)
また、村永氏も続けます。
「紙の申込書は記入漏れや誤記も多く、店舗のチェックだけでは不備を網羅しきれませんでした。その結果、差し戻しや確認作業といった事務の“手戻り”が頻繁に発生し、最大で11名の専任担当者が必要となっていました。その後、OCR(文字認識)やタブレット受付の導入によって本部への集約を進め、体制は5名まで縮小したものの、“会員を増やそうとすればするほど事務負担が増える”という構図は変わらないままでした」(村永氏)
また、ポイント残高や当年度失効予定ポイントの確認は、店舗に設置されたKIOSK端末やクレジット決済端末で照会する必要があり、ユーザーにとって手軽なものではありませんでした。「ポイントを貯めても使う前に失効してしまう」といった声も多く聞かれていました。
「JAでの取引内容に応じて付与倍率が変動するボーナスランク制度も、十分に活用されていませんでした。会員自身が自分のランクを確認する手段がなく、現場職員も把握が難しいことから、制度が運用されていないも同然の状態に陥っていたのです。視覚的にランクを判別できる要素がなく、会員の方が制度の価値を実感しづらい状態でした」(村永氏)
こうした運用上の課題に加えて、人口減少と高齢化も大きなテーマでした。山口県全体で過疎化と高齢化が進む中、JAの組合員構成にも同様の傾向があり、ポイント会員の平均年齢は70歳を超えていました。正組合員(農業者)の減少をカバーし経営基盤を維持するには、准組合員(農業者以外)の加入・利用拡大が欠かせません。
「これまでは郵送による案内しか手段がなく、コストも時間も大きくかかっていました。ペーパーレス化や業務効率化はもちろん、若い世代とつながるデジタルチャネルの構築が欠かせないと考えていました」(本村氏)
紙と現物カードに依存した運用から脱却し、会員の利便性を高めながら、若年層との新たな接点を築く——。こうして、総合ポイントアプリ(デジタル会員証)の検討が本格的に始まりました。
LINEミニアプリで会員接点と事務フローをデジタル化
総合ポイントアプリの導入にあたり、当初は自社アプリ(ネイティブアプリ)の開発も候補に挙がりました。しかし、既存会員の平均年齢が高いことを踏まえると、あまり現実的ではありませんでした。
「既存会員の平均年齢は70歳超。アプリダウンロードのハードルが高い点がネックでした。一方で、高齢の会員さまでも、お孫さんとのやり取りなどで日常的に使っているLINEであれば、抵抗なく使ってもらえると考えました」(本村氏)
会員登録のハードルを下げるため、LINE上で入力する項目は名前と生年月日のみに絞りました。申込直後から「仮会員」としてポイントを利用できるようにし、まずは気軽に登録してもらえる設計としました。
一方で、紙の申込書時代に課題だった記入不備を防ぐべく、文字の誤記を自動補正する機能や必須項目の入力漏れを防ぐチェックなど、入力支援と不備防止の仕組みを強化しました。住所や電話番号といった詳細情報については、ボーナスポイントの付与を本会員登録の条件とすることで、自然な流れで取得できるようにしました。
また、現物カード時代には組合員・組合員外といった種別が見た目では分かりづらく、直売所の接客時に迷うケースがありました。LINEミニアプリでは会員証画面の背景色を——仮会員(緑)、組合未加入(シルバー)、組合員(ゴールド)と、種別ごとに変えることで、レジ担当者がひと目で会員種別を把握できるようにしました。これにより、組合員への加入案内や、種別に応じた声かけがしやすくなっただけでなく、会員本人も組合員であることが直感的に把握できるようになりました。
「色分けは単に“見た目を変える”のではなく、会員自身が組合員であることを認識できることを重視して設計しました。現場の職員の方々が瞬時に判断できるよう配慮しています」(村永氏)
さらに、近年の米不足を受けて、JA山口県は2025年度から米の年間予約サービス「おこめんばー’S Club」を開始しています。LINEミニアプリ導入を契機に、このサービスの申し込みから受け取り管理までをLINEミニアプリ内で完結できるようにしました。募集告知は店やLINE公式アカウントでのメッセージ配信で行い、申込者の管理や受け取り時のデジタルチケット提示まで、LINEを起点とした運用に統合しています。
LINEミニアプリと同時に導入した、JA山口県のLINE公式アカウントについては、効率性とガバナンスを両立するために運用ルールを整備しました。配信内容のデザインや文案は総合企画部が担当し、全部署のトーン&マナーを揃えています。
「配信頻度は月1〜2回とし、スマホを見る機会が多い昼休みや夕方の時間帯を中心に配信しています。ブロックを防ぐため、配信対象はできるだけ属性やエリアで絞り、キャンペーン案内など目的が明確なメッセージを中心に構成しています。当初は総合企画部から各事業部に配信内容の提案を行っていましたが、半年ほどで各部署から積極的に配信依頼が届くようになりました。配信後の成果を丁寧に共有してきたことで、LINE公式アカウントの有用性がJA内に浸透していったのだと思います」(松田氏)
日常的なお知らせについては、LINE公式アカウントのリッチメニューからアクセスできる掲示板に掲載し、新しいトピックを追加した際には「NEW!」の表示と更新日を付けています。
「掲示板がタップされると内容を伝えるメッセージが自動表示されるようにするなど、視認性と分かりやすさにも配慮しています」(村永氏)
会員基盤拡大と事務・コスト削減、そして次のDXへ
LINEミニアプリ「JA山口県総合ポイントアプリ」導入後、ポイント会員数は着実に伸びました。導入前は新規会員申込が月800人ほどでしたが、2025年2月のアプリスタート月にはキャンペーン効果もあり3,782人に達しました。
その後も定期貯金の金利上乗せ施策や「おこめんばー’S Club」申し込み時の登録必須化などが奏功し、毎月1,000人前後の新規申込が継続しています。運用開始から10カ月が経過した2025年11月17日時点で、LINEミニアプリの登録者数は23,398人、LINE公式アカウントの友だち数は26,845人に到達しました。
「導入前は、特に若い利用者の方に書面申込をご案内すると『面倒だから』と断られてしまうこともありました。今は『簡単に登録できて便利』『財布がカードでいっぱいにならない』といった声をいただき、前向きに申し込んでいただけるようになりました」(松田氏)
紙申込書の確認や現物カードの発行・郵送、磁気不良や紛失時の再発行といった業務は大幅に減少しました。その結果、カード発行業務に携わる専任職員は5人から1.5人へと削減され、浮いた人員をほかの業務に振り向けることができるようになりました。
ポイント利用や残高確認に必要だった店舗端末(KIOSK端末)も、LINEミニアプリで代替できるようになったことから、2026年度に廃止を予定しており、20店舗分の保守費用削減も見込まれています。
ユーザーからは「カードを持ち歩かなくてよいので便利」「LINE上のアプリなら忘れずに使える」「ボーナスポイントの仕組みが分かりやすくなった」「ポイントの履歴や残高が見えるので使いどきが把握しやすい」といった声が寄せられています。職員からも、「LINE公式アカウントの配信なら利用者に情報がすぐ届く」といった評価が多く、従来のDM中心の業務と比べて、発信までのスピード感や手応えは大きく向上しています。
直売所で実施するイベントの集客にも効果が現れています。これまで告知は店頭ポスターが中心でしたが、LINE公式アカウントでの配信を組み合わせたところ、「母の日イベント」では売上高が前年比132%、来店客数が123%、「直売所の日」では売上高が前年比131%、来店客数が120%となるなど、前年と比べて大きな伸びを示しました。
LINE公式アカウントのメッセージ開封率も高く、友だち全員に配信した場合で約70%、配信対象を絞った配信は90%を超える高い水準を維持しています。
こうしたLINE公式アカウントのメッセージ配信を取り入れたことで、コストと新たな接点づくりの両面で効果が見られています。
会員属性データとLINE公式アカウントを組み合わせることで、組合員の加入促進や事業横断のクロスセルにも活用が広がっています。直売所の利用が多いユーザーにボーナスポイント付与率アップを切り口とした組合員加入案内を行い、実際に加入につながるなど、ライフスタイルや利用状況に応じたコミュニケーションが可能になりました。以前はこうした案内をDM中心で行い、効果測定のために職員が電話での聞き取りを行っていましたが、若い世帯ほど電話に出てもらえる確率が低く、十分な検証が難しい状況でした。
「JAは地域に根ざす協同組合として、人だからこそ提供できる温かみを大切にしています。デジタル活用は、リアルな交流を減らすのではなく、むしろ強化するための土台になると考えています」(本村氏)
今後、JA山口県はLINEミニアプリの機能拡張をさらに進めていく予定です。将来的には、組合員加入手続きそのものをLINEミニアプリ上で完結できるようにすることも視野に入れています。
「JAは組合員の組織であり、これから山口県の『農業』と『くらし』を支え続けるためにも、次世代の方に積極的に参画していただきたい。それには、手続きのハードルを下げることも大切。LINEサービスを起点に、地域の皆さまとのつながりをより深めていきたいですね」(本村氏)
(公開:2026年1月、取材・文/戸谷美帆)
本記事内の数値や画像、役職などの情報はすべて取材時点のものです
本記事内の実績は取材先調べによる数値です
| 企業名 | 山口県農業協同組合 |
|---|---|
| 所在地 | 山口県山口市
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| 事業内容 | 信用、共済、購買、販売、保管、利用、加工、営農指導、生活指導
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