国内カフェチェーン大手の「スターバックス」は、2002年にカフェ業態としていち早く事前チャージ式のプリペイドカード「スターバックス カード」を導入しました。その後、デジタル化を経て、2019年にはスターバックス カードのLINEミニアプリ版である「LINEスターバックス カード」の提供を開始。LINEミニアプリ上では、会員証機能を軸に「LINE Starbucks Order & Pay」など、ネイティブアプリと同等の主要サービスを提供し、新たなユーザー接点の創出に成功しました。国内のデジタル戦略を統括するスターバックス コーヒー ジャパン 株式会社の松山真哉氏(以下、松山氏)に、LINEミニアプリとネイティブアプリ(自社アプリ)の併用ポイントやその効果、今後の可能性などについて話を聞きました。
- ネイティブアプリをダウンロードしないライト層にも、LINE上で気軽にサービスを体験してもらいたい
- デジタル接点を広げ、来店頻度と会員化率を高めたい
- 2019年に、会員証発行・チャージ・支払いをLINE上で完結する「LINEスターバックス カード(LINEミニアプリ)」を導入
- 2021年12月より、上記に加えてオーダーのサービスを導入
- 上記とMy Starbucksを連携させ、Star(スター)や会員情報を一元管理
- スターバックス® リワード会員のうち、約25%(440万)はLINEスターバックス カードを保有
- 440万のうち約40%がMy Starbucksと連携
- モバイルオーダーの利用拡大により、ネイティブアプリ同様に混雑緩和と業務効率化を実現
- LINEミニアプリで先行導入したPayPay入金の好評を受け、ネイティブアプリを含むMy Starbucks登録済みのスターバックス カードへのオンライン入金にも導入
アプリを入れずに使える“手軽さ”でライト層を集客
アメリカ・シアトル発のカフェチェーン「スターバックス」は、2002年にプリペイドカード「スターバックス カード」を導入して以降、デジタル化を段階的に進めてきました。2011年には、デジタル会員サービス「My Starbucks」をスタートし、2016年にはネイティブアプリをリリース、スマホ上でカードを発行・利用できるようになりました。2017年にはロイヤルティプログラム「スターバックス® リワード」を展開、決済金額に応じてStar(スター)をため、ドリンクやフードに使えるeTicketやオリジナルグッズと交換できる仕組みを整えています。
この流れの中で2019年に誕生したのが、LINEミニアプリ版の「LINEスターバックス カード」です。LINEスターバックス カード導入の狙いについて、松山氏は「大きく二つあった」と明かします。
「一つは、ライトユーザー層の取り込みです。来店頻度の低いお客さまにネイティブアプリをダウンロードいただくのは、なかなかハードルが高いわけです。しかし、月間アクティブユーザー数9,900万人(2025年9月末時点)のLINEであれば、多くの方はダウンロード不要で、気軽に会員になっていただけると期待しました。まずLINEスターバックス カードをご利用いただいて、その後、来店頻度の向上とともにネイティブアプリに移行してもらうという想定です。
もう一つは、お客さまの利便性の追求です。新たにアプリを立ち上げなくても、普段使い慣れたLINEの中でサービスが完結するほうが、お客さまにとって親切だと考えたのです。LINEミニアプリは、ライト層にとってデジタルサービスを使い始める最初の接点として最適だと認識しています」
LINE上で展開する、もう一つのスターバックス体験
現在、LINEミニアプリとネイティブアプリで提供しているサービス・機能に大きな差はありません。LINEスターバックス カード(LINEミニアプリ)は、ユーザーがLINE上でスターバックスの主要サービスをまとめて利用できる仕組みです。会員証発行、チャージ、オーダー、支払いを一つの導線で完結できます。
特にLINE Starbucks Order & Payは、LINE上で商品注文から決済までを完結できるサービスです。店舗を指定し、商品を選んで支払いを済ませると、受け取りまでのおおよその時間が分かります。商品準備完了の通知を確認して店舗に向かえば、レジに並ぶことなく商品を受け取れます。
「全国の店舗で着実にご利用が増えています。レジ前での注文受付が不要なため、ネイティブアプリ同様に混雑緩和、業務の効率化、回転率および売り上げの向上など店舗側へのメリットも大きいですね。お客さまと店舗の双方にとって有益なサービスですから、今後も改良を加えながら、利用率のアップを図っていきたいと思います」
注文完了後、LINEミニアプリ お知らせ(LINEミニアプリ公式)から注文受領通知と商品準備完了通知が届く
440万に拡大 LINEスターバックス カードは「ロイヤル層」へも浸透
こうした“手軽さ”を入り口に、より継続的で豊かな体験を生み出す仕組みがMy Starbucksアカウントとの連携です。
LINEスターバックス カードは、My Starbucksアカウントと連携しなくても、チャージや支払いなどの基本機能を利用でき、Starをためることもできます。ただし、ためたStarを特典チケット(eTicket)やグッズに交換するなど、リワードプログラムを利用するには、My Starbucksアカウントとの連携が必要です。
連携後はLINEスターバックス カードでためた残高やStarもそのまま引き継がれ、ネイティブアプリや物理カードと共通の会員情報として、シームレスにサービスを利用できます。
このように、LINEミニアプリとネイティブアプリは、利用スタイルや目的に応じて使い分けができる関係にあり、双方がスターバックス体験をより豊かにしています。
誕生から20年以上が経ちスターバックス® リワード会員は約1,800万を超えるまでに成長しました。そのうち約25%にあたる440万がLINEスターバックス カードです(2025年10月時点)。
「その440万のうち、約40%がMy Starbucksと連携しています。当初、LINEミニアプリ導入の目的は、ライトユーザーの集客とロイヤルユーザーへの移行促進であり、その双方で成果を上げることができました。
その40%の中には、スターバックスを長く愛用するロイヤルユーザーのお客様もおり、LINEミニアプリ自体の長期利用も見られています。つまり、LINEミニアプリは“ライト層の入り口”でありながら、“ロイヤル層にも支持されるもうひとつの体験チャネル”として定着しているのです」
LINEミニアプリが新たなユーザー集客と会員化の入り口となっている
「LINEミニアプリとネイティブアプリのどちらを使うかは、お客さまが自由に選択していただければ良いと思っています。どちらの方法でも気持ちよくスターバックスを体験していただけることが大切です。だからこそ、多くのユーザーが日常的に利用している“LINEの中にスターバックスがある”という存在は非常に重要です」と松山氏は語ります。
また、LINE上で展開するスターバックス体験としては、LINEミニアプリによる「LINE スターバックス カード」だけでなく、LINEギフトを通じた“贈る”“贈られる”体験もあります。
LINEギフトはLINE公式アカウントをはじめ、LINE内のさまざまな入り口から利用でき、誕生日やちょっとしたお礼のシーンなどで、ドリンクやフード、コーヒー豆などのチケットを気軽に贈ることができます。このようなデジタルギフトによる“贈る”“贈られる体験”は、ユーザー同士のコミュニケーション接点を生み出すとともに、ブランドとの新たな関係構築を促し、ファン層の拡大や顧客ロイヤルティの向上にもつながっています。
LINEギフトによる“贈る&贈られる体験”を通じて、ブランドとユーザーの関係性を深めている
LINEミニアプリとネイティブアプリの双方を活用し、デジタル接点を広げてきたスターバックス。2つのアプリを併用する意義について、松山氏はこう語ります。
「LINEミニアプリとネイティブアプリの併用は、いまのところマイナス面はなく、プラスしかありません。両アプリを併用してきたことで、新たな気づきもありました。例えば、もともとスターバックス カードのオンライン入金方法は、クレジットカード、Apple Payのみだったのですが、LINEスターバックス カードがPayPayに対応したところ、ユーザーから好評だったため、2024年5月からはスターバックス カードでもPayPayからの入金を可能にしました」
スターバックスは、LINEミニアプリとネイティブアプリを通じて、日常の中でより身近にブランド体験を提供してきました。こうした取り組みの広がりが、ユーザーとの接点を豊かにし、ブランドへの愛着を一層深めています。
その先を見据え、松山氏は今後の展望を語ります。
「ここ数年、年間100店前後を新規出店しているものの、まだまだ出店の余地はあると思っています。従来のコーヒーを楽しんでいただく店舗はもちろんのこと、ティーに特化した「スターバックス ティー & カフェ」、「子どもも家族も楽しい」スターバックス、エスプレッソを使ったビバレッジと、イタリアンベーカリー プリンチ® のコルネッティを楽しむ、新しいスタイルのカフェベーカリーなど形もさまざまです。全体の店舗数の増加と並行して、デジタル戦略の担当としては、もう一度、より広くライト層を取り込む新たな施策に挑戦したいと考えています。
一方で、ロイヤルティの高いお客さまであるゴールド会員の方の数もかなりの規模になってきました。スターバックスにより愛着を持っていただいている方への特別なご提案もしていきたい。ライト層からコア層まで、あらゆるお客さまに寄り添った豊かな“スターバックス体験”をご提供していきたいと思います」
(公開:2025年11月、取材・文/相澤良晃、写真/慎芝賢)
本記事内の数値や画像、役職などの情報はすべて取材時点のものです
本記事内の実績は取材先調べによる数値です
| 企業名 | スターバックス コーヒー ジャパン 株式会社 |
|---|---|
| 所在地 | 東京都品川区
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| 事業内容 | コーヒーストアの経営、コーヒー及び関連商品の販売
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| サービス | スターバックス オンラインストア |