埼玉県越谷市をホームタウンとするプロバスケットボールクラブ・越谷アルファーズは、国内男子プロバスケットボールリーグ「B.LEAGUE（以下、Bリーグ）」に所属しています。2024-25シーズンには、B2リーグからトップリーグのB1に昇格。クラブビジョンは「バスケでまちを盛り上げる」「日本一の”一体感空間”を」で、地域に根差した活動を大切にしています。

越谷アルファーズは、たくさんの人に情報を届けるため、公式サイトをはじめLINE公式アカウントやSNSを活用しています。それぞれの運用方針について、森岡氏はこう話します。

「情報のプラットフォームとして公式サイトを置き、SNSは告知や発信の拡散、日常の中でアルファーズとのタッチポイントを増やすことを目指して活用しています」（森岡氏）

B1に昇格する以前から開設している越谷アルファーズのLINE公式アカウントでは、主に試合情報やグッズの販促を目的に運用しています。そうした中、マスコットキャラクターのアルファマンのLINE公式アカウントの作成には、あるきっかけがありました。B.LEAGUE ALL-STAR GAME 開催のタイミングで「マスコットキャラクターのLINE公式アカウント（LINEエンタメアカウント ※）を開設して、Bリーグを盛り上げる」という企画が立ち上がったのです。

ところが、森岡氏は当初、企画に参加するか少し迷ったといいます。その理由は、すでにたくさんのSNSを運用しており、その中身もまだまだ充実させきれていない中で、人手や工数の面で懸念があったことでした。

「でも、『アルファマンから直接LINEが届く』という体験を想像したときに、心が躍ったんです。越谷アルファーズは、2024-25シーズンにB1に昇格したばかりの新参クラブです。ほかのクラブと比べてもSNSのフォロワー数もまだ少なく、広報の面でも数々の課題と向き合い、チャレンジを続けている段階でした。だからこそ、ほかのクラブもみんなゼロから“よーいドン“でスタートができる『マスコットキャラクターのLINE公式アカウント』という取り組みに、大きな可能性を感じました」（森岡氏）

こうして始まったアルファマンのLINE公式アカウントは、広報の枠を超えて、”アルファメイト（越谷アルファーズを応援・サポートする方の愛称）”との関係性を大きく変える存在になっていきます。

アルファマンは2019年、埼玉県越谷市に突如として現れたヒーローです。過去には、宇宙のバスケットボールリーグ「SBA（Space Basketball Association）」のスター選手だったという経歴を持つ「謎多き宇宙人」。優しくクールな一面もありながら、おっちょこちょいな人間味もあり、現在は越谷アルファーズの試合に駆け付け、得意なアクロバットなどのパフォーマンスを披露して会場を盛り上げ、チームを応援しています。

そんなアルファマンのLINE公式アカウントでは、毎朝8時半にアルファマンからメッセージが届きます。開設当初から始めたこの“朝のルーティン配信”は、今ではアルファメイトの生活の一部になっています。自身のLINE公式アカウントを持ったことについて、アルファマンはこう語ります。

「アルファマンは前々からもっとアルファメイトとコミュニケーションがしたいと思っていたんだぞ。なぜなら、ほかのマスコットキャラクターは試合会場で人だかりができるのに、アルファマンのことは遠目で見ている人が多かった……もっとアルファメイトと話がしたい、なんとか距離を縮めたいというのは、アルファマンの切実な願いでもあったんだぞ」（アルファマン）

癒し系のマスコットキャラクターとは異なり、“人型”のアルファマンに駆け寄ってくる人、話しかける人は決して多くはなかったとのこと。森岡氏からLINE公式アカウント開設の打診があった際、アルファマンは快諾したそうです。朝にメッセージを送ることは、森岡氏とアルファマンで話し合って決めました。

「毎朝届けるメッセージが、アルファメイトの方の1日の始まりになればうれしいと思いました。通勤や通学の途中でクスッと笑ったり、ちょっとだけ元気になったりするような内容をアルファマンが届けています」（森岡氏）

届けるメッセージは「おはよう　今日から2025-26SEASON」といったバスケットボールに関するものほか、「おはようさんでー　サンデーくらいは起こさんでー」など、笑いを誘うものまでさまざまです。アルファマンは毎日起床後、8時半ちょうどにメッセージを送れるように設定をしています。

すると、SNS上で「毎朝アルファマンがメッセージを届けてくれる」「おもしろい！」とアルファメイトを中心にLINE公式アカウントが話題に。試合会場を訪れたアルファメイトから、アルファマンのLINE公式アカウントの存在がどんどん広がっていきました。

「当初は毎朝メッセージを送るのは、受け手にとってノイズになってしまうのでは？と心配もしていました。けれども、そんな不安とは裏腹に、実際は楽しんでくれている人の方が多く、うれしい驚きでした」（森岡氏）

懸念していたLINE公式アカウントのブロックも、運用開始から半年でブロック率5％（2025年6月時点）と非常に低いものでした。手応えを感じた森岡氏とアルファマンは、その後もルーティン配信を続けていきました。

アルファマンが送ったメッセージに対して、ユーザーから「おはよう」といった返信が届くことも多いそうです。

「LINE公式アカウントを開設当初は、友だちの半数くらいの方がリアクションをしてくれました。友だち数が増えた現在でも、多い日は3〜4割の方が返事をしてくれます」（森岡氏）

「朝のLINEはアルファマンの欠かせない日課だぞ。ただ、時々寝坊してしまうこともあります、ごめんなさい」（アルファマン）

アルファマンは、しばしば8時半までに起きられないことも。その場合は森岡氏がすかさず「応答メッセージ」の設定をフォローし、仮に、アルファマンが起きる前にユーザーから先に「おはよう」とメッセージを送った場合、アルファマンからは「Zzzz……」といった返信が送られてくるようにするなど、遊び心のある設計をしています。

「応答メッセージの数はLINE公式アカウント開設当初から少しずつ増やして、2025年8月現在で1,000パターン以上あります。実は、アルファメイトも含めてまだ誰も発見していない“隠しコマンド”のようなものも、アルファマンはこっそり用意しているようです」（森岡氏）

8時半にメッセージを送る際、アルファマンは自身の画像や動画も一緒に配信しています。例えば、人気動画の「アルファマンの『どーっちだ？』」のように、動画内に表示された「①」「②」のうち、どちらかを選んで返信すると、アルファマンがその日の運勢を占ってくれるものもあります。

「アルファマンに『じゃんけん』とメッセージを送ってみてほしい。そうすると、アルファマンとじゃんけんができるぞ」（アルファマン）

朝のメッセージ以外にも、「じゃんけん」や「あっち向いてホイ」など、ゲーム感覚の仕掛けも用意しています。じゃんけんでアルファマンに勝利すると、「（ユーザー名）の勝ち。すごいじゃないか」といったポジティブなメッセージが届きます。

「アルファマンの強みは前向きで明るいことです。だからこそ、見てくれた方がハッピーになれるような言葉を届けるようにしています」（森岡氏）

そうした中、2025年3月、B.LEAGUEが主催するマスコットキャラクターの投票企画「B. LEAGUE MASCOT OF THE YEAR 2024-25（以下、マスコットオブザイヤー）」の投票期間がスタートしました。

これまで、マスコットオブザイヤーでのアルファマンの順位は36位（2021-22年）、28位（2022-23年）、22位（2023-24年）でした。ところが、アルファマンのLINE公式アカウントで毎朝メッセージを配信し続けたことで、ユーザーにアルファマンの魅力が伝わり、2024-25年度は第7位と大躍進を遂げました。

さらに、LINE公式アカウントの友だち数は、2025年7月現在で1万人を超えています。アルファマンの調べによれば、LINE公式アカウントを開設したBリーグ13チームのマスコットキャラクターのうち、友だち数が1万人を超えたのは、アルファマンが4番目でした。

「アルファマンより早く友だち数が1万人を超えたチームは、以前から人気を集めるB.LEAGUEマスコットキャラクターのレジェンドばかりでした。そうした皆さんの後に続けたことに喜びを感じています。また、マスコットオブザイヤーで7位まで躍進できた理由として、アルファマンのことを”好きなキャラクター2位”に投票いただいた方が圧倒的に多かったと予想しています」（森岡氏）

マスコットオブザイヤーは、好きなキャラクターを1位から3位まで選んで投票します。そのため、1位は自分が応援しているチームに入れ、2位以降はそれ以外のお気に入りのキャラクターに投票するケースが多いそうです。

アルファマンのLINE公式アカウントは開設以降、主に口コミで友だち数が伸び続け、アルファマン関連グッズの売り上げも約2倍になったといいます。最近では、試合会場でメッセージの内容を共通の話題として、アルファマンに話しかける方も多いそうです。

「クラブのSNS公式アカウントはどうしても“中の人の顔”が見えづらくなりますが、マスコットキャラクターのLINE公式アカウントは“キャラクター本人”が発信しているので、距離が一気に縮まります。LINE公式アカウントはほかのSNS以上に、One to Oneのコミュニケーションに近いので、親近感を持ってもらいやすいのだと思います。アルファマン自身も、友だち一人ひとりをとても大切に思っています」（森岡氏）

森岡氏とアルファマンは、今後のLINE公式アカウントの活用についてこう話します。

「継続性とタッチポイントを増やすことが重要だと実感しているので、今後もアルファマンと一緒にLINE公式アカウントでアルファメイトとの会話を毎日楽しみながら、クラブやアルファマンへの親しみを育んでいきたいです。今後はアルファマン主催の企画イベントも増やしていきたいとアルファマンが意気込んでいるので、その導線にも活用していければと思っています」（森岡氏）

「あなたの朝にアルファマン。アルファマンとのLINEで少しでも笑顔が増えたら最高だ。アルファマンはどんな時でもみんなの心にそっと寄り添えるヒーローでありたいと思っているぞ」（アルファマン）

LINE公式アカウントというツールの持つ親密さを最大限に生かし、宇宙からやってきたヒーロー・アルファマンは、今日もユーザーの朝に笑顔を届けています。

（公開：2025年9月、取材・文／土橋水菜子、株式会社POWER NEWS　写真／川嶌 順）