愛知県の中央部に位置する日進市は、名古屋市と豊田市という二大都市に隣接する利便性の高さから、都市の利便性と豊かな自然環境が調和した「職住近接」のベッドタウンとして発展を続けています。市内には複数の大学がキャンパスを構える「学園都市」としての側面も持ち、全国的にも珍しく若年層やファミリー層の人口増加が続く活気あふれるまちです。近年では、市民サービスの利便性向上や業務効率化を目指した行政DXに積極的に取り組んでおり、住民に寄り添った先進的な自治体モデルとして注目を集めています。

LINE 公的個人認証サービス(JPKI)を採用した理由を教えてください

日進市では、一人あたり5,000ポイントを付与するデジタル商品券事業にあたり、「確実に日進市民へ届けること」と「住民が使いやすいこと」の両立を重視しました。
市内ではマイナンバーカードの保有率が約8割まで進んでおり、本人確認の手段としてJPKIは自然な選択肢でした。本人確認が完了すれば、その場でポイントが付与され、すぐに利用できます。郵送や紙の確認に比べて、住民にとっても職員にとってもスピード感のある仕組みです。
また、専用アプリを新たに入れてもらうのではなく、多くの住民がすでに使っているLINE上で完結できる点も大きな理由でした。日進市としても、LINE公式アカウントを今後の行政情報発信の基盤にしていきたい考えがあり、今回の事業はその接点を広げる機会にもなりました。
導入までの経緯と運用の工夫を教えてください
これまでお米券の配布をはじめとする物価高騰対策を紙を中心としたアナログ方式で実施してきましたが、庁内や議会からは「デジタルを活用し、確実に日進市民へ届けたい」という声が上がっていました。
そうした中、隣接市においてOH MY GOD株式会社の「ザ・クーポン」を活用したデジタル施策が展開されていることを知り、スマートフォンのみで手続きが完了する仕組みづくりを依頼する運びとなりました。

導入は非常に短いスケジュールで進みました。初回の打ち合わせは12月10日。その後、12月から1月にかけて情報提供依頼(RFI)および提案依頼(RFP)を通じて、製品・サービスに関する情報収集と導入可能性の検討を行いました。1月末から実装を進め、2月ごろから本格的な調整に入り、4月1日の開始に間に合わせるよう進めました。
運用面では、JPKIだけに限定せず、本人確認書類の画像提出による申請ルートも用意しました。マイナンバーカードを持っていない方、スマートフォン操作に不安がある方、15歳未満の子どもの申請など、JPKIだけでは拾い切れないケースにも対応するためです。

住民向けには、案内マニュアルを作成して広報紙に折り込み、全戸配布しました。さらに約3週間、特設の相談窓口を設け、画面を見ながら操作を支援しました。高齢の方の中には、LINEで通話やメッセージはできても、証明書を読み取ったりポイントを取得したりする経験がない方もいます。そうした方に対して、最初の一歩を横で支える運用を用意したことが、利用拡大につながりました。
店舗側の導入負担も抑えました。参加店舗は317店舗で、前回の267店舗から約2割増加。店舗は専用機材を購入する必要がなく、QRコードを設置するだけで利用を受け付けられます。紙の商品券のように枚数を数えて請求する必要がなく、読み取りデータが自動で集計される点も、店舗にとって参加しやすいポイントでした。
ご利用いただいた住民の反応を教えてください
相談窓口には、操作に不慣れな方からの問い合わせが多く寄せられました。「普段スマホは通話やメッセージに使っているが、ポイント取得には使ったことがない」という戸惑いが代表的です。

一方で、利用状況を見ると、仕組みはしっかり受け入れられていました。手続き件数は5万件以上にのぼり、そのうち約56%がJPKIを利用。多い日には1日で約5,000件の申請がありました。住民の約8割にポイント付与が完了し、そのうち約7割がすでに利用済みという状況です。

また、LINE公式アカウントの登録者数は、事業前の約1.2万人から約5.5万人まで増加しました。デジタル商品券の取得をきっかけに、行政と住民の新しい接点が大きく広がったことも、今回の成果の一つです。
サービス開始後の職員の反応を教えてください
職員側で最も大きかった変化は、紙の商品券を物理的に管理する必要がなくなったことです。紙券の場合、金庫から出す、しまう、枚数を数えるといった管理作業が発生するうえ、紛失や盗難、印刷ミスなどの不安も伴います。デジタル化により、こうした負担が大きく軽減されました。
過去のアナログ商品券事業を知る関係者からは、「アナログの商品券事業はもう持ってこないでほしい」という反応もあったほどです。今回の事業では、職員が時間外業務に追われるような状況は特になく、紙券管理が不要になっただけでも実務的・心理的にかなり楽になったといいます。

JPKIによって、対象者管理も簡素化されました。従来は基準日時点の住民リストを作成し、転入・転出を反映しながら対象者を管理する必要がありました。今回は、申請時点で日進市民であることを確認する設計にしたことで、リスト管理の負担も軽くなりました。
さらに、デジタル化によって利用状況が日々見えるようになりました。紙券では「配った後、どれだけ使われているか」がすぐには分かりません。今回は毎朝、申請数や利用状況を確認でき、年代別の取得傾向も見ながら、20代向けのSNS広告など次の打ち手を検討できました。
今後の展望・提言
今回の取り組みは、単発のデジタル商品券事業にとどまりません。LINE公式アカウントの登録者が大きく増えたことで、今後、必要な行政情報を必要な人へ届ける基盤が広がりました。将来的には、年代や属性に応じたセグメント配信、LINEアンケートを利用した「広聴機能の強化」など、住民との継続的な接点づくりにも活用できる可能性があります。
また、地域内での横展開も始まっています。デジタル商品券事業が円滑に運用されたことを受け、商工会側でもデジタルスタンプラリーのような取り組みへの関心が高まりました。店舗も住民も一度デジタルの利用体験を持ったことで、次の施策では「前に使ったあの仕組み」として受け入れられやすくなります。
他自治体への提言として重要なのは、最初からすべてを完璧にデジタル化しようとしないことです。JPKIによる即時性を軸にしながら、本人確認書類の提出ルートや相談窓口も用意する。住民、店舗、職員それぞれの不安を一つずつ減らしていく。そうすることで、デジタル施策は「難しいもの」ではなく、「次も使える地域の仕組み」へ変わっていきます。
ありがとうございました
![]() | 愛知県日進市 |
| 人口:94,602人(令和8年8月1日現在) | |
| 住所:愛知県日進市蟹甲町池下268番地 |
