表現によって伝わり方は変わる-DE&Iの視点を取り入れた「置き換えフレーズ集」
広告制作やLINE公式アカウントなどで情報発信を行う際、テキスト表現は重要な要素です。制作側として「受け取る人にとって心地よい表現にしたい」と思っていても、どんな言葉が、どんな人に、どう受け取られるのかは、価値観とともに多様化しています。そこで、日々の業務において判断に迷った際、参考にできる考え方を事例とともに紹介します。
※本コラムは、言葉や表現を選ぶ際にDE&Iの観点で参考となる事例をまとめたもので、類似する表現を否定するようなものではございません。多様な表現や考え方があり正解があるものではないことから、DE&Iの尊重された広告や情報発信について、皆さまと一緒になって推進していく機会となれば幸いです。
言葉選びで「メッセージの温度」は変わる
言葉には、受け取る人の背景や価値観によって、まったく違う意味合いが生まれることがあります。表現自体は同じでも受け取る人によっては誤解が生まれたり、自然に受け入れられたりします。
例えば、年齢を前提にした言葉、家族像を固定化する言葉、性別役割を当たり前とする言葉など。どれも決して悪意があるわけではありませんが、意図せず特定の人だけを想定しているように取られてしまう可能性があります。
そうしたリスクを把握したうえで言葉の使い方を検討することで、受け取る人の幅が広がり、メッセージそのものが持つ温度も変わるのではないでしょうか。
現場で役立つ「置き換えフレーズ」事例
広告バナーやホームページ、LINE公式アカウントでのメッセージ配信などを例に、5つのカテゴリ別に、表現例と置き換えを検討したい言葉を紹介します。
1.年齢:前提を「経験」や「機能」に置き換える
ある事象に対して、年齢を前提とした表現を用いて、「できる/できない」と述べることは、「できる/できない」ことの理由が、年齢であるという固定観念を植え付ける可能性があります。
年齢で対象を限定するのではなく、状態やメリットを明確に伝える方法に置き換えることで、印象が大きく変わります。
| 従来の表現 | 置き換えフレーズの例 |
|---|---|
| お年寄りでも簡単 | はじめての方でも簡単 |
| 高齢者向けに大きな文字 | 文字を大きくして読みやすく |
「お年寄りでも」などの表現を「はじめての方でも」に修正。年齢層を限定せず、誰にとってもハードルが低いアプリであることが訴求できます。
2.利用条件:「属性」ではなく「仕様」を伝える
個人の状態を基準にすることは、その属性に対しての固定観念を植え付ける懸念があります。サイズや数値、機能に着目して伝えることで、より中立的で正確な情報伝達が可能になるのではないでしょうか。
| 従来の表現 | 置き換えフレーズの例 |
|---|---|
| 標準体型向け | Mサイズ相当の方向け |
| 太っている方でも座れる | 耐荷重◯kgのしっかり設計 |
| 障がいのある方でも使える | アクセシビリティーに配慮した設計 |
「障がいがある方でも使える」などの表現を「アクセシビリティーに配慮した設計」に修正。比較を表す「でも」を避け、読み上げ機能や操作性などの「機能」を説明することで、すべての人を対象に快適な環境について提案が可能となります。
3.ライフスタイル:特定の「家族像」を固定しない
家族構成や役割を前提にすると、無意識に「あるべき姿」を押しつけてしまうことがあります。特定のかたちにとらわれない表現への置き換えができるのではないでしょうか。
| 従来の表現 | 置き換えフレーズの例 |
|---|---|
| ママ必見 | 育児中の方におすすめ |
| お父さん向け | ビジネスシーンでも使いやすい |
| 片親家庭でも安心 | さまざまな家庭の形に対応 |
「お父さん向けのプレゼント」などの表現を「ビジネスシーンでも使いやすいデザイン」に修正。家庭によっては、共働きや外に働きに出るのが、父親ではなく母親の場合もあります。家族内の役割ではなく「利用シーン」について説明することで、贈る相手を限定しない、選びやすい提案になります。
4.性別・ジェンダー:色や機能の「特徴」にフォーカスする
性別による「らしさ」の決めつけは、固定観念を植え付ける可能性があります。商品が持つ本来の魅力や対象者の状況について説明するような表現へ置き換えることで、性別役割にとらわれない表現ができると考えます。
| 従来の表現 | 置き換えフレーズの例 |
|---|---|
| 主婦にやさしい価格 | 家計にやさしい価格 |
| 男でも使える | 誰でも使いやすい |
| 女性らしい色味 | やさしい色味 |
「女性らしい色味」などの表現を「やさしい色味のアイテム」に修正。性別による好みの決めつけを避け、色の特徴に焦点を当てることで、誰でも手に取りやすいコミュニケーションになります。
5.働き方:属性ではなく「状況」を明確にする
雇用形態や属性を「標準」と「それ以外」に分けると、意図せず序列を生む可能性があります。必要な条件を客観的に伝えるような表現に置き換えるのはどうでしょうか。
| 従来の表現 | 置き換えフレーズの例 |
|---|---|
| サラリーマン向け | 平日昼休みに利用しやすい |
| 外国人OK | 日本語以外にも対応(英語・中国語) |
| 体力に自信のある方歓迎 | 一定量の移動作業がある仕事です |
「体力に自信のある方歓迎」などの表現を「一定量の移動作業」に修正。「どんな能力が必要か」ではなく「どんな作業を任せたいのか」を明確に示しました。
まとめ:その表現の背景にいる「誰か」を思い浮かべる
表現を変えるだけでも、伝わり方は大きく変わります。大切なのは、言葉を機械的に置き換えることではありません。
例えば、「障害」という表記は、社会の側にバリアがあるという考えから「障害」とする場合もあれば、「害」の漢字の意味やイメージなどを考慮し、敢えて平仮名で記載する場合もあります。言葉は単なる記号ではなく、その背景には思想や前提が含まれています。
「無難そうだから」という消極的な理由で選ぶのではなく、「この言い方で置き去りになる人はいないか」と一歩立ち止まって考えてみること。その積み重ねが、コミュニケーションの質をより良いものへと変えていくのではないでしょうか。
Q&A
ターゲットを絞る広告と、DE&Iは両立できますか?
広告とDE&Iは両立できると考えます。
広告や、情報発信内容の検討の中で、「この言い方で置き去りになる人はいないか」と一歩立ち止まって考えてみるフローを追加するだけでも、両立になるのではないでしょうか。
ここでお伝えしたいのは、「より多くの人に届ける」内容に変更するということではありません。DE&Iの観点では、年齢や性別といった属性だけで人を括るのではなく、「どんなニーズや状況にある人を想定した表現か」という視点がひとつの手がかりになります。
その視点を取り入れることで、同じ相手に向けた表現でも、受け取られ方が変わってくる場合があります。
すべてを中立的な表現にすると、むしろ印象が弱くなりませんか?
「中立にする」というと、「特徴や個性をなくすこと」と受け取られがちですが、必ずしもそういう意味ではありません。
DE&Iの観点では、誰かを過度に評価したり、逆に排除したりする表現を避けることがポイントになります。
特徴や魅力を伝えること自体は、これまでと同じように大切にしつつ、「誰かと比較して下げる」「特定の属性だけを“普通”とする」といった表現に頼らない工夫を意識してみる、という考え方です。
1件でも『不快だ』というユーザーの意見があったら、すぐに表現を変えるべきですか?
「1件だから無視してよい」わけではありませんが、「ユーザーから意見があった=表現を変更しなければならない」と機械的に判断する必要もないと考えます。まずは、なぜそう感じたのか、どの部分がひっかかったのかを
丁寧に考えていくことが出発点となります。そのうえで、
• 有害なステレオタイプや差別的なニュアンスにつながる可能性があるのであれば、速やかに見直す
• 誤解を招きやすい表現なら、言い換えや補足の方法を検討する
というかたちで、ユーザーからの意見に対して背景や事情を理解したうえで改善につなげていくことが、DE&Iの観点からも望ましい対応と考えます。
DE&Iは採用や社内制度の話で、広告クリエイティブにはあまり関係ないのでは?
広告やキャンペーンの表現は、企業の姿勢や価値観を伝える重要な要素の一つです。
他の場面でDE&Iを掲げていても、広告などの表現にステレオタイプが含まれていると、一貫性が伝わりにくくなることがあります。
だからこそ、広告にもDE&Iの考え方を反映させることが、長期的なブランド信頼や好意につながるのではないでしょうか。
マイノリティー(少数派、多様な背景がある)な人を登場させればDE&I的に正解になるの?
単に「登場させるだけ」という扱いでは、かえってステレオタイプを強めてしまったり、人物を記号的に扱う表現につながることがあります。
大切なのは、なぜその人物がそこにいるのか、どのような文脈で描かれているのか、という点ではないでしょうか。
「多様性を象徴する存在」としてではなく、その人自身の背景や役割が感じられる表現かどうかを意識することが求められていると感じています。
DE&Iを意識すると、制作に時間がかかるのでは?
後工程で表現に問題が見つかったり、ユーザーから意見を寄せられると、意図しない工数やコストが増えてしまう可能性はあります。
しかし、企画初期に「どんなリスクや前提が潜んでいるか」を確認することができれば、スムーズに制作を進められるのではないでしょうか。
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