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LINEミニアプリ LINE公式アカウント

LINEミニアプリ起点の転換 東急が実践する 会員基盤のデジタルシフト

東急株式会社

2026.03.19

東急株式会社
デジタルプラットフォーム マーケティンググループ 参事 吉井 光生氏(左)
デジタルプラットフォーム URBAN HACKS シニアマーケティングプロデューサー 冨里 晋平氏(右)

※当事例は、日経ビジネス電子版に掲載された記事の転載です。

「自社アプリを作っても使われない」「ポイントカードは高齢化が進み、若年層との接点が生まれにくい」――多くの企業が抱えるこの課題に対し、東急グループは「まずLINEで会員になってもらう」戦略を取った。自社アプリ中心の発想から距離を置き、LINEミニアプリを活用したTOKYU POINT CARD on LINEを起点に会員基盤を再設計。結果、デジタル会員は約50万人規模(2026年1月時点)に拡大し、来店頻度向上という定量的成果も生まれている。その意思決定と設計思想について、担当者の2人に話を聞いた。

「まずつながる」ために LINEを会員基盤の軸に

首都圏を中心に、213社7法人(2025年9月30日現在)で構成される東急グループ。交通、不動産、生活サービス、ホテル・リゾート事業を柱とし、多方面から人々の生活を支えている。

 

グループの中核を成す東急株式会社では、2019年からLINE公式アカウントを中心とする会員基盤のデジタル施策を進めてきた。きっかけはスーパーマーケットの東急ストアから寄せられた「PayPayやLINE Pay*を導入したい」との声だった。

  • LINE Payは当時提供されていた決済サービス。現在、日本国内での提供は終了しています

当初はLINE公式アカウントと決済を起点にした取り組みとしてスタートし、検証を重ねる中で、LINE上で会員登録から利用までを完結できる手法の有効性が見えてきた。

 

スーパー業界はDXが盛んで、競争が激しい分、判断も行動も非常に早い。QRコード決済の機運の高まりもあり、「そのスピード感が背中を押した」とデジタルプラットフォーム マーケティンググループの吉井光生氏は振り返る。

東急株式会社 デジタルプラットフォーム マーケティンググループ 参事 吉井 光生 氏

「マーケティンググループはグループ共通ポイントのTOKYU POINTを運営していて、横串でグループ会社にご利用いただいているのが強みでした。この資産を生かして、TOKYU POINT会員のデジタル化に取り組みたいという構想がありました。TOKYU POINTの関与売上で見ると東急ストアは約半分を占めますが、当時は店頭でプラスチックのポイントカードを提供し、あとからWeb上でご登録いただくフローが主流でした。そこで、コミュニケーションツールとして定着しているLINEに着目し、LINE公式アカウントを軸に1to1で情報発信ができる会員基盤を作ろうと考えました」(吉井氏)

 

当時、LINE Payには決済時にLINE公式アカウントが自然な形で友だち追加される仕組みが備わっていた。この特性を生かし、最初の半年間は大きな施策を打たず、まずはどれだけ「友だち(LINE上で自社アカウントを追加しているユーザー)」が自然に集まるかを見極めたという。結果は想定以上で、友だち数は万単位で増加した。

 

「LINEミニアプリを本格提供する以前の段階では、LINE公式アカウント上に、今のように会員証バーコードを表示する仕組みはなく、LINEアカウントのユーザーIDと自社のユーザーID、ポイント番号を連携するだけでした。連携してもらえれば裏側でポイントデータが確認できるため、東急ストアでの購買有無などで会員を判別できます。そのデータを使って、ポイント連携してくれた人だけにお得な情報を届ける形で進めていました」(吉井氏)

 

グループ各社が自社アプリ運用に苦戦していた事情も重なった。当時はスーパー、百貨店など、それぞれで独自のアプリを運用していたものの十分に使われているとは言えず、業態ごとに作り込んでも価値を出し続けるのは難しいという共通認識があった。だが、LINE公式アカウントが東急ストアで確かな成果を上げていたことで、吉井氏は「LINEを会員基盤の軸にできる自信を深めた」と話す。

 

「単なるポイント連携ではなく、デジタル会員証にしたほうがお客さまにベネフィットを感じていただけると考えました。また、TOKYU POINTの会員基盤は元々、スーパーや百貨店の会員基盤をベースとしていたため、女性かつ60代以上が7割という会員構成比に偏りがありました。会員層の若返りやDXを実現するためにも開発したのが、LINEで完結するデジタル会員証機能、LINEミニアプリ『TOKYU POINT CARD on LINE』です」(吉井氏)

LINEミニアプリ「TOKYU POINT CARD on LINE」上でTOKYU POINT CARDを登録することで利用できる
ポイントカードを持っていない場合でも、スマホ上で簡単に新規発行ができる

こうした背景から、2022年5月に東急ストアを皮切りにグループ各社に拡大し、LINEミニアプリを活用したTOKYU POINT CARD on LINEを本格展開することになる。TOKYU POINT CARD on LINEは、LINE上でTOKYU POINT CARDの登録や新規発行ができるデジタル会員証だ。

 

「LINE公式アカウントの友だち数も格段に増え、ポイント連携率も非常に高いものでした。DXを進めるうえで、これほど手軽に始められて、お客さまにとっても使いやすい手段はない。東急ストアの成功体験があったので、横展開でも迷いなく進められました」(吉井氏)

デジタル会員は50万人規模へ 若年層との接点獲得

2022年5月の開始以降、LINEミニアプリ経由で新規にデジタル会員となった人は約20万人。既存のプラスチックカード会員の移行分も含めると、デジタル会員証を使える会員は約50万人規模に達している。「TOKYU POINT会員は全体で約250万人。そのうち約20%がデジタル会員証を利用できる会員となり、確実にデジタル化が進んでいます」と吉井氏は手応えを見せる。

LINEミニアプリ経由の新規集客は20万人。既存会員のデジタル移行を含め、デジタル会員証利用者は約50万人にのぼる

30〜40代の登録が増え、会員構成も確実に若年層側に動き始めた。LINEで完結できる手軽さに加え、2024年4月にリニューアルした「電車とバスで貯まるTOKYU POINT」サービスが会員獲得に寄与したという。

 

「従来は駅で申し込みの手続きが必要でしたが、屋外広告やWeb広告を中心にプロモーションを展開し、LINEですぐ会員登録できる点を訴求しました。交通ポイントを入口にLINEミニアプリ経由でTOKYU POINT会員になる人が増え、若い層や男性の利用が増えました。日常接点としての交通は、リテールとは違う強みがあります」(吉井氏)

 

東急のデジタルプロダクト開発を牽引するURBAN HACKSに所属する冨里晋平氏も「この敷居の低さがLINEの一番の強み」と語り、こう続ける。

 

「当社グループには多様な商業施設やサービスがありますが、その一つひとつが個別に自社アプリを用意し、ダウンロードや集客のコストをかけ続けるのは、現実的ではありません。

 

そこで各リテール施設では、お客さまにとって最も身近なLINE公式アカウントを接点とし、気軽な友だち追加から日常的な情報発信を行いつつ、LINEミニアプリ上でスムーズにポイント会員登録まで完結できる流れを作りました。

一方で、自社アプリについては『東急カードプラス』に開発リソースを集中させ、よりロイヤリティの高いお客さまに向けたコンテンツや機能を拡充しています。入り口としてのLINEと、体験を深掘りするための自社アプリ。それぞれ役割を分担し、互いに補完し合うことで、より良質な顧客体験を提供できると考えています」(冨里氏)

 

現場のユーザー体験はどう進化したのか。実はTOKYU POINT CARD on LINEでポイント連携している人と、プラスチックカードのみを利用している人を比較すると、明確な違いが見えてきたという。1回あたりの決済単価に大きな差はないが、月間の来店頻度に違いが見られたのだ。

 

「プラスチックカードのみを利用している会員の月平均来店頻度は6.7回ですが、TOKYU POINT CARD on LINEでポイント連携している会員では、8.1回と1.4回増えています。差は小さく見えても、掛け算すると月の利用金額は確実に上がります。この傾向は、利用額の多い層でも少ない層でも共通です。私たちは、“LINEミニアプリは来店頻度を上げるツール”だと加盟店に伝えています」(吉井氏)

TOKYU POINT CARD on LINE 3つのメリット

2024年7月からはTOKYU POINT CARD on LINEにTOKYU CARD(クレジットカード)を登録することで決済できる「TOKYU CARD スマート払い」がスタートした。会員証バーコードを一度提示するだけで、ポイント取得と決済が完了する。東急ストアではTOKYU POINT以外の汎用ポイントも貯めることができる。本機能はお客さまのみならず、従業員の負荷削減にも直結している。

 

「検証*では、従来のプラスチックカードで対応していたときの約35秒に対し、スマート払いでは約18秒で完了しました。半分の時間になっていて、レジのスピード改善効果はかなり大きいものです。スマート払いはTOKYU CARDだけが対応しており、その点も狙いの1つ。つまり“TOKYU CARDを保有していただければ、レジが圧倒的に早くなる”とのメッセージも込めています」(吉井氏)

LINEからロイヤル層へ 段階的な育成戦略

東急が描くのは、LINEミニアプリをフックとしてポイント会員とつながり、より機能がリッチな自社アプリ、さらにはクレジットカード会員へと移行・拡大していくモデルだ。ここでもLINE経由で分析した会員データが効いていると吉井氏は言う。

 

「LINE公式アカウントは現在30ほどを運用・サポートしていますが、マーケティンググループではプロバイダーを共通化して、すべて東急をデータの起点にしました。これにより、誰がどのLINE公式アカウントの友だちになっているかを横断で把握できるため、このデータをフル活用しています。なかでも、我々が直接運営しているTOKYU POINT LINE公式アカウントの友だちの約7割がポイント番号を連携しているので、そのデータベースを見ながら、メッセージのセグメント配信ができるのがメリットです。例えば、半年間東急ストアを利用していない人だけに送ったり、TOKYU CARDを連携しているにもかかわらずスマート払いを設定していない人にだけ案内したりなどと選ぶことができます。細かくセグメントして、直接響きそうな人にだけ有効な情報を届ける方法が可能になりました。その結果、開封率はかなり高い水準を維持できています」(吉井氏)

 

グループ全体でLINEによるポイント会員獲得基盤が整備されたことで、今後は自社アプリのリニューアルを敢行する。「自社アプリ会員になっていただくことで、よりお得なクーポンや、ポイントが貯まりやすいキャンペーンを用意しています」と吉井氏。それを受け、冨里氏は次のように言葉を引き継いだ。

 

「東急ポイント会員は、東急グループにおいて最重要の顧客基盤の一つであり、今後の拡大においても高い目標を掲げています。その中で、LINEを軸としたデジタル会員の獲得は極めて重要な鍵となります。

LINEミニアプリには、プラットフォームの豊富な機能を活用して、低コストで施策の検証をスピーディーに回せるという期待を持っています。また、LINEの施策で得た知見を自社アプリを含む他のタッチポイントにも還元しながら、ポイント会員をどうクレジットカード会員という深い関係性に繋げていくか。これがこれからの大きなテーマです。ようやく、次の段階へ進むための土台が整ったと感じています」(冨里氏)

 

LINE基盤をトリガーに、さらに上の体験へ引き上げられる環境作りに成功した東急グループ。「もしこの接点がなかったら、自社アプリを入れてもらうのは相当厳しい。そう考えると、LINEは自社アプリに誘導するためのとてもありがたいコミュニケーションツールです」と吉井氏は結んだ。LINEで獲得した顧客を最上位のロイヤル会員へと育成していく良質な事例として、ぜひ参考にしてほしい。