創業100年を超える老舗シューズメーカーとして、革靴からスニーカーまで幅広い商品を展開するマドラス株式会社(以下、マドラス)。同社は店舗とECを横断した顧客体験の向上を目指し、近年はデジタル施策の強化に取り組んできました。中でもLINE公式アカウントの活用は、メール中心だった顧客コミュニケーションを見直すきっかけとなり、会員情報との連携を軸にしたCRM施策によってECの売り上げにも着実な成果があらわれているといいます。
LINE活用の背景から施策、得られた効果、今後の展望まで、マドラスで自社ECの運営やマーケティング施策を担当する深谷真悟氏(以下、深谷氏)と、LINEログインやID連携の導入を支援したソーシャルPLUSの田中恵氏(以下、田中氏)に話を聞きました。
- 店舗とECの会員データを統合的に活用し、ユーザーの利便性を高めながら、One to Oneコミュニケーションを実現したい
- メール中心のコミュニケーションから脱却し、LINE公式アカウントを軸に“確実に届く”接点を構築したい
- 店舗での会員証発行を起点に、友だち追加・会員登録・ID連携までをその場で完了できる導線を設計
- ECでの会員登録・ログインもLINEログインに統一し、店舗・ECを横断した顧客接点の拡大を推進
- あいさつメッセージやクーポン施策で、友だち追加のみしているユーザーのID連携を促進
- 商品検索や会員証の表示など、日常的に使われる導線を3タブ構成のリッチメニュー上で整理
- 自動応答メッセージを活用し、リッチメニューから素早く商品検索が可能に
- 購買データ・性別・LINE公式アカウント上での行動を基にしたメッセージのセグメント配信を実施
- 月間の友だち追加数のうち約7割がLINEログイン経由となり、ターゲットリーチにおけるID連携率は約40%を記録
- 特に店舗からの友だち追加が大きく伸び、熱量の高い既存顧客との接点獲得に成功
- LINE公式アカウント経由のECの売り上げが前年比約130%へと成長
- 月間の配信数あたりの流入率は、メールマガジンと比較して、LINE公式アカウントが約8倍高い数値を記録
メールの反応率が低下、店舗とECをつなぐ新たなチャネルを模索
1921年に亜細亜製靴株式会社として創業し、1983年に現在の社名へと変更したマドラス。同社は、1946年にイタリア・ヴェネツィア郊外のバッサノで誕生したシューズブランド「madras」を日本に導入し、イタリアのクラフトマンシップを継承しながら、“日本人の足に本当に合う履き心地”を追求してきました。近年はリカバリーファッションシューズといった新領域にも挑戦し、時代に合わせたものづくりを進めています。
こうしたブランドの進化と並行して、2021年には自社EC「マドラス オンラインショップ」を全面リニューアルし、店舗会員とEC会員の一元化を実現。ブランドサイトやコーポレートサイトも統合し、顧客体験を横断的に改善する基盤を整えてきました。
「会員プログラムを基軸とした購入頻度の向上は至上命題ですが、本質的なLTVの最大化には、当社とお客さまとの間に『強固な共創関係』を築くことが必要になります。靴のEC購入において、最大の壁となるのは『サイズ感や質感への不安』です。この不安を、緻密な情報発信によって信頼へと変え、購買サイクルの隙間を埋める継続的な接点を設計することで、単なる消費対象ではない、生涯選ばれ続けるブランド体験の構築を目指しています」(深谷氏)
一方、従来の主要コミュニケーションチャネルであったメールマガジンの反応率が年々低下するなど新たな課題も発生していました。
「性別など簡易的なセグメントで配信していたものの、実質はほぼ全配信で、個別最適化できているとは言えませんでした。メールは売り上げに大きく影響するチャネルでしたが、届きにくくなってきた実感があったんです。もっとOne to Oneコミュニケーションが必要だと感じていました」(深谷氏)
そこで同社が着目したのが、ユーザーに“確実に届き、日常的に使われている”LINEでした。LINEであれば、EC上はもちろん店頭からもLINE公式アカウントに友だち追加でき、店舗とECを横断した一貫性のある顧客接点を持つことができます。
こうした特性から、顧客との継続的な接点づくりには最適なチャネルだと判断し、LINE上でユーザーにタイムリーかつ最適な情報を届けられるLINE公式アカウントの本格的な活用を検討しました。
その際に課題となったのが、LINE公式アカウントの友だち追加に加え、自社の会員情報とユーザーのLINEアカウントのID連携(※)までスムーズに促す仕組みづくりです。ID連携はユーザー一人ひとりに最適化した配信を行う上で不可欠な一方、連携作業にユーザーの手間が増えるためハードルになりやすい部分でもあります。そこでマドラスは、この“つまずきやすいID連携”をスムーズに行うことができるよう、株式会社ソーシャルPLUSが提供するSaaS「ソーシャルPLUS」を導入しました。
LINEアカウントのID連携には、ユーザーの許諾・同意が必要です。
「ソーシャルPLUSは、企業が保有する会員情報とユーザーのLINEアカウントを安全につなぎ、会員登録やログインの手間を減らせるサービスです。店舗とECのどちらにも顧客接点がある企業で利用する場合は、LINEログインを用いたID連携によって、店舗とECいずれのお客さまもLINE公式アカウント上のどの友だちかを正しく識別できるようになります。これにより、店舗とECを横断して、お客さまの購買状況を踏まえたCRM施策がLINE公式アカウント上で実行できるようになるのが大きな特徴です」(田中氏)
LINEログインを活用したID連携と友だち追加を起点に、店舗とECを横断した接点作りを進めることで、マドラスは“会員基盤を生かしたOne to Oneコミュニケーション”と“お客さまの購買体験の利便性向上”を両立できる仕組みを整えていきました。
ユーザーのモチベーションが高い瞬間に合わせてID連携を案内
現在、マドラスのLINEアカウントの友だち数は4万人(2026年2月時点)を超えています。その成長を支えているのは、店舗での地道な取り組みです。
店舗では、試着用の椅子やレジ前に会員証発行(LINEログインで会員登録)のQRコードを設置。スタッフが接客の流れの中でこのQRコードを案内し、その場でLINE公式アカウントの友だち追加とID連携、「マドラス オンラインショップ」の会員登録まで完結できるようにしています。
店舗での会員登録が簡単にできるようになり、さらにLINE公式アカウントのリッチメニューからすぐに会員証を表示できるようになったことで、来店時の買い物体験も大きく改善しました。
「店舗スタッフにとっても、お客さまにとっても“手間が増えないこと”が重要です。紙の会員証を配るのではなく、LINEで会員証を表示できるようになったことで、ご案内がとても楽になりました。結果として、店舗での会員登録数が大きく伸びています」(深谷氏)
一方で、すでに友だち追加はしているものの、まだ会員登録やID連携が完了していないユーザーも一定数存在します。そうしたユーザーに対して、マドラスではいくつかの導線を重ねて自然に連携へと進める工夫を行っています。
その一つが、友だち追加後に自動で送られる「あいさつメッセージ」です。ここでは、ID連携の方法やメリットを分かりやすく伝え、必要なタイミングでスムーズに連携へ進めるよう工夫されています。
また、ID連携で利用できるクーポンの配信や、新規会員登録でポイントが付与される施策を組み合わせ、ユーザーが「今、登録しておこう」と思える瞬間をつくり出しています。
EC側でも、ユーザーがマイページにログインしているタイミングに合わせ、Web接客ツールでID連携を促すポップアップを表示。深谷氏は、この「モチベーションが高い瞬間」を逃さないことがポイントだと話します。
「ID連携に取り組んでくださったお客さまは、メッセージの開封やその後のアクションなどの反応がとても良いんです。マドラスのブランドへのエンゲージメントが高いお客さまに対し、購買行動に応じた情報提供やスムーズなお買い物体験を実現できていることが、結果につながっていると考えています。だからこそ、店舗での会員証提示やマイページのログインなど、“お客さまが前向きに行動している瞬間”に合わせて自然にご案内できるようにしています」(深谷氏)
こうした導線設計により、月間の友だち追加数の約7割がLINEログイン経由となり、ターゲットリーチにおけるID連携率も約40%に達しています(2026年2月時点)。友だち数・ID連携数はともに順調に伸び、LINE公式アカウントを軸としたCRMの基盤が着実に強化されていきました。
タブ型リッチメニューで、“知りたい”と“買いたい”を一画面に
友だち追加やID連携の施策と並行して、マドラスが力を入れてきたのが 、LINE公式アカウント上で「迷わず進める体験」を形にすることです。その中心となっているのが、タブ型のリッチメニューです。
ソーシャルPLUSのLINEマーケティングツール「Message Manager」を活用し、ユーザーの利用状況やアクセスの傾向を踏まえながら、現在は3つのタブで構成しています。
最初に目にするタブには、その時々で届けたい「最新情報」を配置。最新情報はブランドの世界観やスタイリング提案を楽しめるようなコンテンツを設定しています。
二つ目のタブ「便利な機能」には、オンラインショップ、ニュース、商品や店舗の検索など、日常利用で必要となる実用的なメニューを集約。
三つ目のタブ「人気コンテンツ」では、公式InstagramやTikTokへの導線から、シューズランキング、スタッフスタイリング、オンラインマガジン、スタッフコラムまで、ユーザーがブランドコンテンツを直観的な操作で気軽に楽しんでいただけるような構成にしています。
ログインや会員証、ID連携など利便性の高い重要なメニューは一つ目と二つ目の両方に共通して表示することで、タブを切り替えることなくワンタップで利用できるようにしています。
また、リッチメニューと自動応答メッセージを組み合わせているのも特徴です。「会員登録/ID連携」のボタンをタップすると、テキストで「ID連携をする」とメッセージが表示。さらに連携の手順をそのままチャット上で案内します。
また、同様に「商品を検索」ボタンをタップすると、ユーザーが選ぶ条件に合わせて商品ページへ自然に案内される流れとなっています。選択肢を選ぶだけで目的の商品に辿り着けるため、ユーザー側の操作もシンプルになりました。絞り込みするフローをスキップできるため、購入へのCVRも他経路より非常に高く推移しています。
「リッチメニューをタブ型にしたことで、ユーザーが目的に合わせてスムーズに動けるようになりました。特に、会員証の提示やオンラインショップへのアクセスなど、日常的に使う機能が分かりやすくなったと感じています。結果として、ID連携数や会員登録数の増加にもつながっています」(深谷氏)
こうして、マドラスのLINE公式アカウントは「届く」「使いやすい」「回遊される」という3つの体験を底上げし、CRM基盤としての役割をより強固なものにしています。
LINE公式アカウントが“マドラスのコンシェルジュ”へ
LINE公式アカウントの基盤が整い、友だち追加やID連携が進んだことで、マドラスではより細やかなコミュニケーションにも取り組み始めています。
最近では、友だち追加の経路を識別するタグ付けにも着手し、店舗・EC・メルマガなど、ユーザーがどこからブランドに触れたのかを把握できるようになりました。例えば性別や購買履歴、LINE公式アカウント上での行動データと組み合わせることで、顧客属性に合わせたスタッフスタイリング提案や、顧客のブランドエンゲージメントに合わせたコンテンツ配信などのメッセージ配信を実現。「必要な人に、必要な情報を届ける」ための準備が着実に進んでいます。
深谷氏は、こうした変化を踏まえてLINE公式アカウント活用の未来像を語ります。
「ユーザーの行動や特性を少しずつ捉えられるようになってきたことで、LINE公式アカウントが“マドラスのコンシェルジュ”のような存在になれる可能性を感じています。店頭でスタッフが自然におすすめを紹介するように、LINE公式アカウントでも迷わず知りたい情報にアクセスできる状態をつくっていきたいです」(深谷氏)
成果としても、すでに確かな手応えが見え始めています。
ECにおけるLINE公式アカウント経由の売り上げは前年比約130%と大きく伸長しました。特にリッチメニュー経由の売り上げは、メッセージ配信と同等かそれ以上を記録しています。また、月間配信数あたりの流入率は、メールマガジンと比較してLINE公式アカウントが約8倍高い数値を誇るなど、これまでリーチしきれなかった層にも、情報が確実に届くチャネルへと成長しました(数値はいずれも2026年2月時点)。
深谷氏は、基盤が整ったことで、次のステップに進む準備ができたと話します。
「今後は、メッセージの自動配信のシナリオを複数走らせたり、ユーザーの行動に応じて個別にメッセージを届ける“トリガー配信”を導入したりと、より細分化されたニーズにあわせた運用へ進めていきたいと考えています。また、LINE公式アカウントは熱量の高いお客さまとの大切な関わりの場となっており、『madras journal』や『新作のルック』への反応が良くブランド自体を楽しんでいただいています。単に売り上げを上げるだけではなく、マドラスのファンの方にとって“心地よい体験の場”になるよう、良質なコンテンツづくりも継続していきたいです」(深谷氏)
「LINE公式アカウントを売り上げ増加のツールとして使う企業も多い中で、マドラスさんは既存のお客さまとの良質なコミュニケーションの場としてLINE公式アカウントを運用されている点が印象的です。お客さまが気持ちよく情報を受け取れるようなメッセージ設計を、これからも一緒につくっていければと思います」(田中氏)
LINEを“コンシェルジュ”のように育てながら、マドラスはこれからもお客さまに寄り添う体験づくりを進めていきます。
(公開:2026年3月、取材・文/畑中杏樹、写真/川嶌 順)
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本記事内の実績は取材先調べによる数値です
| 企業名 | マドラス株式会社 |
|---|---|
| 所在地 | 愛知県名古屋市
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| 事業内容 | 革製履物製造卸販売
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| サービス | 公式マドラスオンラインショップ |